今年5月、鹿児島市下伊敷1丁目の栄門通りにオープンした「otonari(おとなり)」。キッチンをシェアし、日替わりで出店者が変わるユニークなカフェです。
築60年の民家をリノベーションしたというだけあって、白い暖簾をくぐった瞬間、レトロな雰囲気にほっこり。
シェアキッチンで作られる商品は曜日ごとに異なります。
月・金曜日は翠雨(すいう)さんが手がける「日替わり弁当」560円。
火・土曜日は、カフェの近くに住む米丸久美子さんが手がける焼きたてパン。
表情の違うパンが10種類ほど並ぶ中、一番人気は写真手前の「胡桃とピーナツクリームのロングパン」240円です。
取材で訪ねたのは土曜日でパンの日。
シェアキッチンでは米丸さんが次々にパンを焼き上げている最中でした。
元々、パン作りが趣味でご近所さんに振る舞うのが大好きだったものの、パン屋で働いた経験は全くなかった米丸さん。
カフェの店主・坂口喜代美さんに「おいしいパンをぜひ商品として出してほしい」と声をかけられ、週2回、シェアキッチンでパンを焼く生活が始まりました。
「40年近く、趣味でパンを焼いてきただけなので、声をかけられた時は『私でいいの?』って感じ。不安はありましたが、自分の焼いたパンを多くの方に食べてもらえるってすごく幸せ。週2回のペースもちょうどいいです」と米丸さんも大満足です。
「街にあったらいいな」が原点
パンづくりが上手な米丸さんをスカウトするなど、元気いっぱいの笑顔でこのカフェを切り盛りするのが、店主の坂口喜代美さん。
結婚を機に下伊敷に暮らし始めて30年。
1993年の8・6水害以降、店の閉店が相次ぎ、街全体の活気がなくなる中、「どうにかしなきゃ、という思いが強くなったんです」と振り返ります。
「パン屋もお弁当屋さんもない。おしゃれなカフェもないので、コーヒーを飲みながらおしゃべりできる場所がないんです。そんな中、まちづくりの勉強を始めて東京のシェアキッチンのお店を見学した時、わくわくしました。『この形なら得意分野を持つ女性の人たちの力を生かしながら始められる!』と思ったんです」
カフェのコンセプトは「あったらいいなを、このまちに」。
坂口さんの夫が工務店を経営していることも功を奏し、自宅の隣の空き家をリノベーション。1階と2階にイートインスペースを作り、「お隣に立ち寄る」感覚のカフェを目指しました。
オープンして4か月。先日、嬉しいエピソードがあったそう。
「近所に住む女性の方が『このお店ができたことで、風景が変わりましたよね』と言ってくださったんです。その言葉がすっごく嬉しくて。続けていくことで栄門通りにお店を出そうと新たに思う人が増えるといいな、と思います」
通りにできた小さなカフェが、街のにぎわいを取り戻す一歩になるっていいですね。
「まだまだ今は通過点」と未来を見据える坂口さんの思いが、栄門通りの風景を少しずつ変え始めています。