色とりどりの糸でかがられ、幾何学模様が華やかで美しい「糸まり」。江戸時代以降、全国各地の女性たちの手で受け継がれてきた伝統工芸品の一つです。
この糸まりを手作りしているのが、鹿児島市星ケ峯に住む川原ひろ子さん(69歳)。
20代の頃、市の職員として働いていた高齢者福祉施設で「糸まり」に出会い、一目惚れ。以来、子育ての傍ら、公民館の自主サークルに通ったり、糸まりが得意な先輩女性に教えてもらったりしながら、作り続けてきました。
「こんなに美しくて精巧な糸まりを作れるなんて、元々器用なんでしょうね」と尋ねると…。
「手芸は好きだったけど、手先は不器用でレース編みも上手にできないのよ」と意外な答え。
「だから最初はこんな私でもできるのかな…と思ったの。でも始めてみたら、すっごく楽しくて。『糸を変えたらどんな感じになるんだろう?』と仕上がりが楽しみで、やり出したら途中で止まらなくなるほど夢中になれるの」と糸まり作りの楽しさを教えてくれました。
糸まりの基本は2本糸のかがり縫い。
発砲スチロールのボールに下地の糸をぐるぐる巻いた後、複数の糸で模様を施していきます。
まりの大きさは親指サイズから手のひらサイズまで数種類あり、初心者でも小さいまりで練習すれば、すぐにコツをつかめるそう。
「丸いまりは縁起がいい」と結婚祝いや新築祝い、古希を祝う贈り物にも人気で、川原さんはこれまで多くの人にプレゼントし、喜ばれてきました。
こんなふうに枝葉をつければ、糸まりの花束にも。華やかで表情豊か。眺めているだけで心弾みますね。
女性が紡いできた技を次の世代へ
でも実は今、あることで悩んでいます。
それは、糸まり作りを一緒に楽しむ仲間、技術を伝えていく次の世代がいないこと。
「糸まりを見た方はたいてい『うわあ、きれい!』と喜んでくださるので『一緒に作ってみない?』と誘うんだけど、『無理、無理』と敬遠されるの。『不器用な私でもできるようになったんだから大丈夫よ』と伝えても、作ってみたいという人に出会えないのが残念で…」
子どもの玩具として作られ始め、美しい幾何学模様が女性たちの心をとらえ、日本各地の家々で受け継がれてきた糸まり。
これまで全くの趣味で作ってきた川原さんも、自分が糸まりに出会い、毎日の生活が心豊かになったからこそ、「日本の伝統の技を伝えていきたいと思い始めた」と話します。
「糸まりの基礎を教わった方が高齢になられたこともあって、私が今まで丁寧に教えていただいたように、私もできる範囲で糸まりを作る楽しさを次の世代の方たちに伝えていけたらなあと思ってるの。でも教えるというより、やりたい方がいらっしゃったら一緒に作りませんか?って感じです」
今後は自宅を中心に、ボランティアで糸まりづくりの楽しさを伝えていきたい、と思いを膨らませる川原さん。
おしゃべりも大好きな川原さんのもとで、糸まりの輪が少しずつ広がりますように…。
川原ひろ子さん ☎︎099・265・5993
鹿児島市星ケ峯2-45-13