鹿児島県内の数あるカフェの中で異色の経歴を持つ店主といえば、岡山あやこさん(45歳)。
公立中学校の国語教師として15年間勤務した後、「教え子たちが集える居場所を作りたい」という一心でカフェをオープン。8月で5周年を迎えます。
カフェがあるのは鹿児島市の南部、JR坂之上駅近くの住宅街の一角。自宅の2階をカフェにしたことから、店名は「おかやまさんちの2階バル」。通称「おかバル」の名で親しまれています。
パスタメニューが中心で、一番人気は「エビとアボカドのうまみたっぷりトマトクリームスパゲッティー」1,120円(スープ・ミニドリンク付き)。
ランチにプラスできるデザートも充実していて、こちらのワンプレートは250円とリーズナブルです。
でも「おかバル」の一番の魅力はなんといっても岡山さんとのおしゃべり。食後、彼女と少しでも話がしたくてカフェに足を運ぶ人が多いんです。
実は私もファンの一人。カフェがオープンした時からの付き合いで、時には女性の起業を応援するイベントのゲストスピーカーをお願いするなど、交流を続けてきました。
そんな彼女がテーブルに着いて早々、話し始めました。
「コロナ禍で飲食店の皆さんがテイクアウトや料理を工夫されてますが、私も2人のスタッフの生活を守るために感染対策に力を入れながら精一杯頑張ってきました。おかげで4月まではなんとか耐えてきたんですが、5月と6月は売り上げがガクッと落ち込んだんです。夜の営業をしているお店は時短要請で協力金が入るんでしょうけど、私は夜の営業をしてないので貯金を切り崩すしかないんですよね」
日に日に経営が厳しくなる中、1年後の未来を想像してあることに気づいたそう。
「私の場合、『おいしい料理を食べてもらいたい』じゃなくて『ここに来てくださったお客さんとおしゃべりを楽しみたい』が出発点。コロナ禍の中でお客さんと自由に話せないことがものすごくストレスですが、1年後、もしコロナが収束したとしても以前のようにアクリル板なしでお客さんと1時間でも2時間でもおしゃべりを楽しめるかというと難しい。世の中が落ち着いて客足が戻ればいい、というわけではないんだと気づいたんです」
見える景色が変わり始めた時、岡山さんにはもう一つの気づきがありました。
「結婚した教え子が増えて『子どもの教育費やマイホームの購入資金のための相談に乗ってほしい』と頼まれたり、『コロナ禍で家に物が増えて片付けに困っている』という悩みを聞くことが増えたんです。実は私、家計管理と片付けが得意でアドバイスもできるので、一人ひとりの困りごとを一緒に考える仕事の方がお客さんのためになるし、私自身も幸せなんじゃないかなと思い始めたんです」
病気とコロナ禍を経て見えた未来
3年前に関節リウマチを発症して右手の関節の痛みが始まり、2年前からは両膝の関節の痛みも強くなっていた岡山さん。
お店をいつまで続けられるか分からない。
体力的にもカフェとアドバイス業を並行できない。
そんな思いから、岡山さんはカフェの廃業を決意します。
「そこで、まずスタッフにカフェを廃業することを伝えました。すると店で働きながらハンドメイドの作品を店内で販売しているスタッフから『どうしてもおかバルで働き続けたい。何かいい方法はないですか』と懇願されたんです」
自分のお店だと思っていたけれど、スタッフにとってもかけがえのない場所になっているー。
そのことに気づかされ、「私が選ぶのは廃業ではない」とスイッチが入った岡山さん。
カフェの運営をスタッフに業務委託し、岡山さん自身はカフェの個室スペースでお客様の困りごとに寄り添うアドバイザー業務を始めることで、おかバルを続ける道を見いだしました。
おかバルはカフェ部門、ハンドメイド部門、ライフプランナー部門、お片付けアドバイザー部門と業態を増やし、レベルアップして再開。今後ますます皆様の居場所となり、生きていく上での困りごとを一緒になって考えられるお店となります」
「廃業を考えて悩んでいたのが嘘のように、今はおかバルをパワーアップできることにワクワクしています。ただ、再開後は業務委託のスタッフが一人でカフェを切り盛りするので、提供するメニューはスイーツと飲み物のみ。今までパスタを楽しみに来てくださったお客様には『本当にごめんなさい!』と申し訳ない気持ちでいっぱいです」
岡山さんの話を聞きながら、私は「原点回帰」という言葉が浮かびました。
お客さんと話したくて始めたカフェ。
なのに、お客さんが多ければパスタ鍋の前から離れられず、お客さんと話せないことに矛盾を感じていた毎日。
そんな日々のモヤモヤを曖昧にせず、原点に立ち返って今できることを始めるって、かっこいいなあ…と思います。
ちなみにおかバルは8月末で一時休業し、11月から新しいスタイルで再開予定。つまり、パスタを楽しめるのは8月末までというわけです。
「コロナに負けっぱなしは嫌、世の中が変わるのを待つのも嫌!」と再出発を決めた岡山さんの笑顔に、いつも以上に元気をもらえること、間違いなしです。