幼い頃は「お母さん、お母さん」と喜んで手をつないでいたのに、ある日突然、母親の存在を煙たがり、反抗期に突入する子どもたち。
最近、思春期の子どもがいる女性たちを取材すると「今、絶賛反抗期中なんです」「全然しゃべってくれなくて大変」。そんな悩みを打ち明けられることが増えています。
「もしかして壁に穴が開いた?」と聞くと、ほとんどの女性が「もちろん」とうなずきます。
でも、突然やってくる反抗期をどう過ごせばいいのか、私は正直よく分かりません。
というのも大学生の息子2人に反抗期があったのかどうか、よく分からなかったから。
「もしかして反抗期、あった?」と息子たちに聞くと、「なかったんじゃない?」「親が反抗期と思えばそれが反抗期なんだよ」と宙ぶらりんな返事しか返ってきません。
でも振り返ってみると、突然平穏な毎日に大きな変化が起き、渦に巻き込まれ始めた時、目の前のことに必死になるあまり、大切なことに気づかないまま過ごしてしまいがちでした。
だから「あの頃、あんなに『勉強しなさい』と言う必要なんかなかったのに…」「あの時、もっと大らかな気持ちで子どもに向き合えば、違った道があったかも…」と反省したくなることばかり。
後になって、子どもの行動の本当の意味に気づくことも往々にしてありました。
正解も不正解もない子育て。でも、子育てを終え、荒波も嵐も経験した女性たちと語り合う中で、今、子育て真っ最中の女性たちに伝えられるメッセージがあるかもしれないー。
そこで、子育てがひと段落した女性に「子育てを通して思うこと」、そして「子育て中の女性たちに伝えたいメッセージ」を聞いてみることにしました。
初回は5年間にわたり、息子の反抗期と向き合ったKさんの物語です。
子どもが家で何も話さない5年間
「会話がないってしんどい…」
「5年間ひたすら母親を無視。『ご飯、何食べたい?』と聞いても何にも言わないし、お姉ちゃんは就職で家を離れ、夫は仕事で家にいない時、夜ご飯を息子と食べるんですが、息子が何にもしゃべらないから気まずくって。それが苦痛で、私は一人テレビに向かってしゃべりながらご飯を食べていました」
なぜ反抗期が始まったのか、思い当たる節がなかったKさんですが、ある日、1歳違いの娘が教えてくれたそう。
「『お母さんは弟の地雷をいっぱい踏んでる』って言われたんです。きっと私が世話を焼き過ぎて、言わなくてもいいことまで言ううち、息子は嫌気がさしたんでしょうね」
大学入試の後、襖に穴が開いた時も「自分が地雷を踏んだ気がする」とKさん。
「ショックを受けている息子を慰めようとしたのに『このくらいの努力では無理だったのよ』って本音をぽろっと言っちゃったんですよね。襖の穴はすぐに修理すればいいんですが、息子との思い出のような気がして、半年たった今もそのままです」
今年4月から県外の大学に進学し、一人暮らしを始めた息子とのやりとりはラインのみ。
最初はいくらメッセージを送っても反応がなかったのに、最近では「うん」「ありがとう」。短い言葉ながらも返信が届くようになりました。
Kさんは短い返信に、息子の心の雪解けが始まりつつあることを感じています。
先輩からのメッセージ
「躾よりも抱きしめてあげて!」
5年間にわたる反抗期を経験したKさんに、「今、子育て真っ最中の女性に伝えたいことは?」と聞いてみました。すると…。
「子育ての反省を言えば、私の場合、スキンシップが足りなかったんだと思います。『生まれてきてくれてありがとう』はよく言ってたけど、ぎゅっと抱きしめるってことをしてこなかったと思うんです」
自分自身が親から抱きしめられた記憶がなかったからかもしれない、とKさん。スキンシップよりも言葉でしつけることに重きを置いてしまった、と振り返ります。
「子どもが小さい頃、『靴を並べなさい』『歯磨きをしなさい』『あいさつをしなさい』と命令してばかり。ちゃんとしたお母さんにならなくちゃ、子どもをちゃんとしつけなきゃ、と思い込んでたんですよね。でも、子どもに完璧を求める必要なんてなくて、ぎゅ〜って抱きしめてあげるだけでよかったのに…。今になってそう思います」
初めての母親業は肩に力が入るけれど、子どもは厳しくしつけなくても、自ら学習して成長していくもの。
「だから子育て真っ最中の人には『躾よりもギュッと抱きしめる時間を大切にして』と伝えたいー」。そう話すKさんに、私もそうそう、とうなずくばかりでした。
ありがとう、Kさん。
子育ての核心をついたメッセージ、多くの人に届きますように…。