おしゃれなガラス瓶に入っているのは3種の野菜をカービングし、酢漬けした「ほりんピックルス」。鮮やかな色合いと美しさは、まさに野菜のアートです。
8月に「鹿児島の女子高校生2人がスイカのカービングを初披露」という記事でカービングアーティストの竹田ひろ美さんがカービングピクルスの製造プロジェクトを計画中、と伝えましたが、いよいよ12月から本格始動。
障がいがある人も才能を生かして働けることを目指し、就労支援B型事業所で製造を行うこのプロジェクト。実はこの商品が誕生した背景には一人の女子高校生との出会いがありました。
高校生のきらめく成長が後押し
カービングアーティスト・竹田ひろ美さんが見守る中、熱心にカービングに取り組んでいるのは、高校3年生の馬場真衣さん。軽度の知的障害があり、養護学校に通っています。
二人の出会いは今年2月。ペーパークラフトや切り絵など、手先を使う工作が大好きだったことから、母親に勧められてカービング教室にやってきたのがきっかけでした。
元々、真衣さんは周囲の人とコミュニケーションをとることが苦手。特に初めて会う人には心を閉ざしてしまいがちです。
ところが不思議なことに、ひろ美さんには初日から打ち解け、カービングに夢中になったそう。その日以来、天性のアートセンスと手先の器用さを生かして毎日コツコツと練習を続け、わずか半年で目覚ましい上達を見せたのです。
習い始めて半年とは思えないクオリティー。そして就職を来春に控えた真衣さんは、母親の由香子さんにこう伝えました。
「大好きなカービングを仕事にしたい!」
真衣さんが将来の夢について自分の言葉で語ったのは初めてのこと。娘がカービングに取り組む姿をずっと見守ってきた由香子さんは、ひろ美さんに障がい者雇用の現状を伝えました。
障がいがある子どもたちは手先が器用で才能を秘めていることが多いものの、才能を生かした仕事に就くことは極めて難しいこと。
そして、働くことができたとしても経済的に自立することは難しいことから、将来の夢や働く意欲を持ちづらいこと。
その上で、ある提案をしました。
「カービングを生かした仕事は娘だけでなく、ものづくりを仕事にしたい障がい者にとって大きな希望になると思います。カービングを生かした仕事で障がい者の雇用を生み出すことはできないでしょうか」
その話に心打たれた、というひろ美さん。
タイの伝統工芸であるカービングの魅力を伝えたい一心で教室を続けてきた中、趣味として楽しむだけでなく、真衣さんのように才能のある若い人たちのためにもカービングを仕事として成り立たせる使命を感じた、と話します。
「実は野菜を飾り切りしたピクルスはホテルのシェフや料理人に人気で『カービングされた商品を買いたい』という声が多かったんです。野菜のカービングはマスターしやすいので私が就労支援事業所で技術指導し、商品化できれば新たな雇用につながると考えました」
クラウドファンディングで始動!
こうして誕生したのが、カービングピクルス「ほりんピックルス」(1瓶2,500円)。
鹿児島産のキュウリ・大根・ニンジンを使用し、味は和風・洋風ハーブ・スパイシーの3種類。そして新商品発表と同時に、クラウドファンディングで支援を呼びかけました。
「野菜のカービングを担当した人が1瓶仕上げるごとに工賃をしっかり受け取れる仕組みを作りたいと思っています。そのためには『この商品が欲しい』と思ってくださる方が大勢いることが大前提。市場のニーズを確かめるためにも思い切ってクラウドファンディングで支援者を募ることにしたんです」
私も今回、クラウドファンディングのライティングを担当した縁で、真衣さんの母親の由香子さん(写真右から2番目)に、障がい者の雇用環境についてじっくり話をうかがいました。
聞けば聞くほど、障がいのある人が経済的に自立する道のりは容易ではない、と痛感。
それでも心が晴れやかになったのは、由香子さんのこの一言でした。
「カービングに出会い、娘が夢を語るようになったことで、親の私たちも将来への不安がなくなりました」
障がい者雇用の現状を改善するためにはさらなる法整備が必要ですが、障がいのある人自身が将来の夢を持てることが何よりも生きるエネルギーになる、ということですよね。
「今、真衣は『タイでカービングを学ぶためのお金を貯めたい』とカービングアートの委託販売も始めたんですよ」と嬉しそうに話す由香子さんの笑顔が印象的でした。
ちなみに12月2日から始まったクラウドファンディングは現在、着々と支援の輪が広がっています。
どんなリターンがあるかも含めて、ぜひチェックしてみて!
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「カービングピクルス」クラウドファンディグ