こちらは鹿児島市平之町にある「PONRICK(ポンリック)」のシフォンケーキ。
先日、知り合いの方からいただいて初めて食べたのですが、一口頬張った瞬間、想像以上のしっとり感にびっくり。そして、じわ〜っと心ほぐれる優しい甘さに、瞬く間にファンになりました。
数種類あるシフォンケーキの中でも、レトロな味わいを楽しめる「コーヒー牛乳」味は絶品。しかも、種類ごとに違う猫が描かれたパッケージが独創的でいいんです。
「こんなに気になるシフォンケーキを作っているのはどんな人?」
パッケージを眺めるうち、妙に会いたくなってお店を訪ねました。
小さなお菓子をちょこっとずつ…
照国神社のすぐ近く、大通りから路地を一つ入った場所に「PONRICK」はありました。和の雰囲気漂う、落ち着いた店構えです。
店内に入ると、中央のテーブルに焼き菓子、左の保冷庫にはシフォンケーキとプリンにタルト。
お店のインスタに「鹿児島市の小さなお菓子屋さん。ちょっとずつ丁寧に小さいお菓子を作っています」とありますが、本当に、小さなお菓子がちょこっとずつ並んでいます。
「家庭用のオーブンで作っているので、いっぺんにたくさん作るのは不可能なんですよね」
そう話すのは、店主の川田早弥香さん。
子どもの頃からお菓子作りが大好きだった川田さんですが、短大時代、アルバイト先の喫茶店でオリジナルケーキを作るチャンスに恵まれると「売り物のお菓子を作り続けるって大変!」と痛感。「好きなことは趣味で楽しむのがいい」と会社員として働く道を選んだのだと言います。
ところが、母親の藍染めの店を手伝っていた30代の頃、趣味で作ったお菓子をお茶請けに出すと「ぜひ売ってほしい」とリクエストが続々。周囲の声に後押しされ、6年前、店内で商品の販売を始めました。
こうして誕生したのが「ココロン」。メレンゲにココナッツを加えて作った焼き菓子で、口の中でシュワッと溶ける食感は格別。6年たった今でも一番の人気商品です(小200円、大400円)。
2台の家庭用オーブンが大活躍
さて、厨房を見せてもらうと…。
「うわっ、狭いんですね」とつい声に出したほど、小さな厨房です。
「元々藍染めのお店なので、ちゃんとした厨房があるわけではないんです。でも一人で作業するにはこれで十分。最初はお客様からリクエストがあったココロンだけのつもりだったので、開業資金も10万円足らずで始めました」
商品第1号のココロンの人気が高まるにつれ、少しずつ商品のバリエーションも増加。それでも、家庭用オーブン2台のスタイルは変わりません。
そんな川田さんが何よりもこだわっているのが、素材です。
「砂糖は喜界島の島ざらめ。小麦粉も卵もオイルも体にいい素材を探して使ううち、『茶色いお菓子』が増えていったんですよね」と川田さん。
「茶色いお菓子。ん〜、確かにそうですね」と相槌を打つと…。
「色鮮やかできらびやかな洋菓子は素晴らしくて大好きなんです。でも自分はすごく不器用なので、きれいにデコレーションしたお菓子を作ることはできないし、製菓学校で技術を学んだわけでもないので全くの自己流。だから茶色いお菓子しかできないんですけど、『茶色いけど美味しいな、また食べたいな』と思えるお菓子でありたいと思うんです」
妹のアート力でお菓子を格上げ!
商品パッケージを担当しているのは、川田さんの妹。姉妹ともにも大の猫好きということで、会社勤めの合間を縫って猫のイラストを描き、お菓子に遊び心を添えています。
最近ではこのパッケージが評判となり、ギフトのオーダーもひっきりなし。
「茶色いお菓子のままだったらギフトとして成立しなかったと思うので、まさに妹の絵のおかげですよね。しかも試作品の味を厳しくジャッジしてくれるのも妹なので、妹には頭が上がらないんです」
お菓子作りを仕事にして6年。
若い頃は「好きなことは仕事にしない方がいい」とあれほど思っていた川田さんは今、仕事に対してどう感じているんでしょう?
「自分が本当に好きなことだから少々寝不足でも頑張れるし、最近になってようやく、好きなことを仕事にしてよかった、と思えるようになりました。でも自分は不器用だし、要領も良くないので、これからも業務用オーブンは入れず、家庭用オーブンで自分のできる範囲でやっていきたいと思ってます」
お客さんの「こんなお菓子を食べたい」の声に耳を傾けながら、一つひとつのお菓子を丁寧に作るー。
PONRICKのお菓子を頬張るたび、ふんわり優しい気持ちになれるのは、川田さんの実直な思いがお菓子にギュッと詰まっているからなんでしょうね。
しかも背伸びせず、欲張らず。これまた潔くって素敵です。
最後に、コーヒー牛乳味のシフォンケーキをなぜ作ろうと思ったのか、聞いてみました。
「私がコーヒー牛乳が好きというのもあるんですが、コーヒー味だと大人の方向け。でもコーヒー牛乳味なら子どもさんも喜ぶし、お母さんと子どもさんが分け合いながら一緒に食べられるかなあと思ったんです。
しかも『シフォンケーキはパサパサして苦手』というお客様も多かったので、飲み物が要らないシフォンケーキを目指したくてコーヒー牛乳の量をギリギリまで増やして完成させました。だから、しっとりした仕上がりになっているんだと思います」
なるほど…。食べる人の気持ちにとことん寄り添って生まれたシフォンケーキというわけです。
ギフトもいいけれど、自分へのご褒美として定期的に立ち寄る人も多いそうで、私もご褒美で買いに来れますようにー。
そんなことを思いながら、小さなお菓子をいくつも買い込みました。