キッチンカーは自分らしく働ける新しい形。「いりきはーつ」税所真美さん

鮮やかな黄色のボディーと愛嬌のある表情がぱっと目を引くキッチンカー。

その横に立つ税所真美さんは、薩摩川内市入来町の武家屋敷郡の一角で古民家カフェ「いりきはーつ」を運営する傍ら、昨年8月からこのキッチンカーでスパイスカレーの移動販売を続けています。

キッチンカーの名前は「空翔ぶかたつむり号」。なかなかユニークな名前ですが、「どうしてかたつむり号?」と聞いてみると…。

「私がかたつむりだからなんです。普段はかたつむりのようにペースがゆっくりで、考えをまとめるのに時間がかかってのろいもんだから、かたつむり号って自分にぴったりだなあと思って」と税所さん。

その話に「あれ? 税所さんのイメージと違う!」と驚きました。

私の税所さんのイメージはパワフルで思い立ったらすぐに動き始める行動派。3年前、大河ドラマ「せごどん」でご当地グルメがブームになった時も地元の飲食店と協力して新メニューを開発したり、ご当地調味料を次々に販売したり。ゆったりと歩を進めるかたつむりとは対照的に思えたんです。

「そんな風に周りからも言われるけど、実は動き出すまでに時間がかかるタイプなの」

コロナ禍で飲食店への時短要請が長く続いたこともあり、鹿児島でもキッチンカーを導入する飲食店が増えています。

でも税所さんがキッチンカーでの移動販売を思い立ったのは、まだキッチンカーが目新しかった1年前。自らをかたつむりに例える税所さんはどんな思いでキッチンカーでの移動販売を始めたのでしょう?

しっとり心落ち着く古民家カフェで話を聞きました。

「顔が見える仕事をしたい」

「きっかけはちょうど昨年の春、緊急事態宣言が出てカフェを休業する代わりに、物産館に出すお弁当を作っていた頃でした」

そう話し始めた税所さんがカフェを始めたのは2017年のこと。

古民家で味わえるランチが人気で、税所さん自身、来店者一人ひとりへのおもてなしを楽しんでいただけに、お弁当を黙々と作り続けることに心が疲れていった、と振り返ります。

「朝お弁当を作って持っていき、夕方売れ残ったお弁当を引き上げる。そんな毎日に何か違うなあ…と。私はどんな方がお弁当を買ってくださって、本当はどんなお弁当が欲しいと思っているのか、お客さんの顔が見えてこそ気持ちが乗るんだって分かったんです」

お客さんと向き合える仕事をしたいー。

その思いから、以前から気になっていたキッチンカーのネット検索を続けていると、偶然目にしたのが鹿児島市の販売店にキッチンカー用の中古車があるという情報でした。

「顔の形がかわいくて一目惚れでした。その日はしとしと雨が降ってたんですが、すぐ電話して見に行き、購入を決めました。不思議なことにその時は直感でこの車だ!と思ったんです」

こうして購入したキッチンカーは塗装・改造費も含めて140万円。

キッチンカーで販売することにしたスパイスカレーは一皿700円。移動販売のために試作を繰り返し、子どもでも食べられるスパイスカレーが完成しました。

「大人も子どもも一緒に楽しめるスパイスカレーにしたかったので、辛くないんです。辛いのが好きな人はカイエンペッパーを自分でかけてもらう形にしています」

いただいてみると、スパイスカレーなのにちっとも尖っていなくて優しい味。スパイスに加えて昆布や味噌でうま味をプラスし、まろやかさが際立つカレーです。

新しい形を選んだからこその今!

写真提供:いりきはーつ

昨年8月から本格始動した「空翔ぶかたつむり号」。

始めた当初は地元の人たちのキッチンカーへの馴染みが薄く、様子見の状況。でも大人も子どもも楽しめるスパイスカレーの評判は少しずつ広がり、「うちにも来てほしい」と福祉施設などからもリクエストが入るようになったと言います。

写真提供:いりきはーつ

現在、月曜は薩摩川内市の医師会立市民病院、火曜は薩摩川内市平佐町の「かしの樹」、木曜・金曜は近隣のさまざまな場所に出店。一日に10〜20食ほどを提供しています。

鹿児島県では鹿児島市と霧島市の飲食店への時短要請が6月20日で解除され、日常が戻りつつある中、「カフェはいつ再開するんですか?」と問い合わせの電話も増えているそう。

「今、カフェの営業はストップしていますが、カフェを待ってくださる方がいるというのは嬉しいですよね。今後コロナが落ち着いて以前のようにカフェを再開できるようになったら、カフェとキッチンカーの両方をやっていけるわけだし、そうなると逆にすごいことになるなあ、とワクワクしています」

コロナ禍の中、同じ場所に立ち止まるのではなく、新しい道を模索したからこその今。

「あのままキッチンカーなしでやっていたら、きっとカフェを続けられなかったでしょうね。そう考えると、キッチンカーのおかげで自分らしくやってこれたし、今も自分らしくいられるんだと思います」

自分の思いだけではどうにもならないことが多いコロナ禍にあって、「自分らしくいられる」っていいですね。

税所さんの話を聞きながら「自分の心に蓋をせず、自分の気持ちに素直になって行動した方がいい」とつくづく思いました。

「空翔ぶかたつむり号」のスパイスカレーは、一度食べるとまた食べたくなる心和む味。

周りを元気にする税所さんの笑顔との相乗効果で、今日もどこかでファンが増えています。

IRIKI hearts(いりき はーつ)
薩摩川内市入来町浦之名45
☎︎ 080・5283・4351
空翔ぶかたつむり号のInstagram
flying_snailcurry2020