「基腐病に負けるもんか!」サツマイモ農家・東峯満さんのお芋魂

今年1月に週末限定の軒先焼き芋店をオープンして以来、鹿児島県内のサツマイモ農家の方々からサツマイモを仕入れる傍ら、サツマイモに関する情報を教えていただく機会が増えました。

中でも、サツマイモの栽培から熟成方法まで自ら得た知識を包み隠さず教えてくれるのが、日置市東市来町のサツマイモ農家・東峯 満さん(48歳)。

「私はサツマイモの栽培を始めてまだ12年目。農家の中ではひよっこなんです」と謙遜しますが、おいしいサツマイモ作りへのこだわりは人一倍。自ら工夫して作った熟成室で熟成させたサツマイモを物産館に出荷するたび、「東峯さんのお芋は間違いなか!」と大人気です。

「最初の10年は順調でした。でもここ1、2年は基腐病の影響でとにかく大変なんです」と東峯さん。

これまでに経験したことのない事態に直面する中、どのような思いでサツマイモ栽培に臨んでいるのでしょうか。話を聞きました。

37歳でサラリーマンから農家へ

鹿児島県は薩摩半島の西部に位置する日置市東市来町。自然豊かな山間部に東峯さんのサツマイモ畑はあります。

サツマイモの栽培面積は約7万㎡。焼酎用が8割、青果用が2割の割合で、年間210tものサツマイモを収穫しています。

高校卒業後、愛知県で自動車メーカーの関連会社に就職し、サラリーマンを続けていた東峯さんがUターンしたのは37歳の時。父親が67歳で亡くなったことがきっかけでした。

「16歳で農家になった父親からは『農家を継いでほしい』と言われたことなんて、一度もなかったんです。農家を続けるのがどれほど大変か、身に染みていたからでしょうし、私自身もサラリーマンでずっといくもんだと思っていました。

でも親父が亡くなった時、不思議なことに親父が大切にしてきた畑を荒れ放題にしたくない、親父が頑張って購入した農機具を無駄にしたくないという思いが芽生えたんです。それで思い切って農業に挑戦することにしました」

父親が栽培していたのはタバコでしたが、東峯さんが選んだのはサツマイモ。

「タバコの栽培期間は3月から6月までの短期決戦でものすごく慌ただしいんです。それに比べてサツマイモは栽培期間が長いし、植えれば勝手に育ってくれると思って。お袋がサツマイモ好きだったというのもありました」

ところが、実際にサツマイモの栽培を始めてみると一年中大忙し。1月からビニールハウスで苗を植えては移植を繰り返し、苗の生育状況を毎日チェック。3月下旬になると苗の植え付けが始まり、7月下旬から11月にかけて収穫作業が続きます。

しかも、芋焼酎に使うサツマイモであれば、収穫したらそのまま酒造メーカーに出荷して終わりですが、青果用として出荷するサツマイモは自宅の一角に設置した貯蔵室で1か月以上貯蔵した後に出荷。その後も徹底した温度管理の下で熟成状態をキープし続ける必要があるのです。

「おいしいお芋を作ろうと思うと、365日休みなしで苗の生育状況やお芋の状態を確認し、栽培も熟成も絶えず工夫していく必要があるんですよね。でも頑張ったら頑張っただけ自分に返ってくるのが農業のいいところ。自分のお芋を買ってくれた方が『おいしかった』と言ってくれるのが一番の励みです」

サツマイモ農家を悩ます「基腐病」

サツマイモ農家に転身して10年余り。サツマイモ農家として大きな手応えを感じ始めていた東峯さんですが、ここ数年心を痛めているのが「サツマイモ基腐(もとぐされ)病」です。

「サツマイモ基腐病」(以下、基腐病)とは、茎が黒く変色して枯れ、その後、地中の芋も腐敗する病気。糸状菌(カビ)の一種が種芋や苗に感染することで発病し、菌の胞子が雨水で移動することで感染が広がるといわれています。

こちらの写真は東峯さんの昨年のサツマイモ畑。葉が生い茂る中、一部、黒く変色している株があるのが分かりますか?

このように黒く変色し、枯れているのが基腐病に感染した株。こうなると地中のサツマイモも腐敗し、出荷できません。

「うちの畑では昨年、基腐病の影響で収穫量が2割減りました。でも2割というのはまだいい方で、被害の大きい地域では5割以上ダメだった農家さんも多いと聞いてます」と悔しげな表情の東峯さん。

2018年に国内で初めて発生が報告されて以降、鹿児島県内でも各地で広がり、収穫量が大幅に減少する要因となっている基腐病。現段階で根本的な対策方法は見つかっておらず、予防的な薬剤散布、発病した株の抜き取りなどで凌いでいるのが現状です。

そんな中、東峯さんは県の職員やサツマイモ農家の仲間とたえず情報交換を行いながら、種芋用の畑の土壌改良をはじめ、できる限りの対策を講じています。

「年々収穫量が減って売り上げは下がるのに、基腐病の対策費用はかさむ一方で大変なんですが、何も対策を取らなければ基腐病が畑全体に広がるだけ。基腐病を克服するには数年はかかると思いますが、親父から受け継いだ畑を守るためにも、基腐病に負けたくない!というのが本音なんです」

農家の方々に焼き芋でエールを!

私は今年1月から、毎週40Kgほどのサツマイモを仕入れ、かまどで炭火焼きした焼き芋を販売しています。焼き芋はサツマイモ本来の力と焼く技術が問われる商品。何よりも良質なお芋でなければ、ぷっくり柔らかな焼き芋には仕上がらず、甘い蜜も出てきません。

昨年来から基腐病については耳にする機会があったので、私もある程度理解しているつもりでした。

しかし今年に入り、農家の方から「もう売るお芋がない」「自信を持って出せるお芋が残ってない」と聞くたび、私が考えていた以上に基腐病が農家の方々に大きなダメージを与えていること、しかも昨年の収穫量が底ではなく、多くの不安を抱えながら今年のサツマイモ栽培の準備を進めている現状に、農家の方々の心労はいかばかりだろう…と胸が痛くなりました。

サツマイモの収穫量日本一を誇る鹿児島県。サツマイモの収穫量が減るということは、鹿児島県内で芋焼酎を造る酒造メーカーの方々に影響を与え、私のように地元のサツマイモを焼き芋で味わってほしい、と始めた焼き芋店でも「焼くお芋がない」事態に直面しています。

「でもね、諦めたら終わり。サツマイモは鹿児島県の農業の柱ですから『基腐病に負けるもんか』という思いでやってます」

そう話し、ピークアウトの兆しが見えない中でも常に工夫を重ねる東峯さんの話を聞くうち、「お芋がないと嘆くより、地元でサツマイモ文化を盛り上げていけるよう、私も農家さんと一緒になってできることを考えていけばいいんだ!」と逆にこちらが勇気づけられました。

東峯さんが出荷できるサツマイモも残りわずか。今週も紅はるか、シルクスイート、安納芋の3種を仕入れさせていただきました。

さあ、今週末も農家の方々の思いをお芋に込めて、大切に焼かせていただこうと思います。