2012年、東京都のとある八百屋の店主が家で食事を十分に食べられない子どもたちに食事の無償提供を始めたのをきっかけに、全国各地に広がった「子ども食堂」。
鹿児島県では2022年6月現在、89の団体が登録されていますが、昨年12月に誕生したのが「うすき・こうよう みんなの食堂」です。
立ち上げたのは、生命保険会社で働く傍ら、民生委員を務める髙橋眞由美さん(59歳)。
「困っている人を見ると放っておけない性分なの」と話す眞由美さんですが、なぜ今「子ども食堂」だったのでしょう?
きっかけは困窮家庭の見守り
「実は数年前から個人的に見守りをしている家庭があるんですが、その家は家計が厳しくて赤ちゃんのミルクやおむつを買えないんです。
私もどうしたらいいんだろう?と困って保健師の方に相談したら『ほっぺ食堂という団体が行政の委託を受けてミルクやおむつを困窮家庭に配布している』と聞いて、支援を受けられるようになりました。
ほっぺ食堂は毎月子ども食堂をやっていて、それ以来、見守り家庭の人と一緒に通うようになったんですが、ほっぺ食堂の代表の方に『髙橋さんが住んでいる宇宿の街にも困っている人は結構いるんだよ。髙橋さんにはそれが見えてないだけ。宇宿にはまだ子ども食堂がないから、あなたが始めなさいよ』と言われたんです。その一言で、私も子ども食堂をやろう!と決めました」
「うすき・こうよう みんなの食堂」は毎月第3日曜日に開催。午前9時に宇宿中間福祉館にボランティアスタッフが集まり、調理が始まります。
当初、自分一人でやろうと考えていた眞由美さんですが「宇宿の街で新しく子ども食堂を立ち上げたい」と地区の民生委員に話すと「私も手伝いたい」という声が続々。宇宿小校区と隣の向陽小校区の子ども食堂として動き出すことになったのです。
この日作るのは66人分のお弁当。地域の民生委員や主婦で構成されるスタッフ8人が手際よく作っていきます。
「食材は『かごしまこども食堂支援センターたくして』という支援センターに企業や個人の方々からお米や野菜、お肉などが届き、県内の子ども食堂で分け合う仕組みになっているので、助かってます」と眞由美さん。
お弁当は18歳以下は無料、大人は200円。
2時間でお弁当が完成すると、宇宿中間福祉館と宇宿1丁目の2カ所でお弁当の配布がスタート。事前に公式LINEで予約していた家族が次々に受け取りにやってきます。
子ども食堂は困っている家庭を
見つけ出す窓口
子ども食堂を始める際、眞由美さんは地域の人たちからさまざまな質問を受けたそう。
「自分達の街にそんなに困っている人がいるの?」
「本当に困っている家庭にお弁当が届くの?」
「そもそも本当に困っている人は声を上げられないんじゃないの?」
こうした子ども食堂の意義を問う声に耳を傾けながら、子ども食堂を始めて半年。
眞由美さんは見えてきたことがある、と言います。
「最初から困っている家庭だけにお弁当を届けることはできないんですが、子ども食堂って本当に困っている人を見つけ出す窓口だと思うんです。
私も毎月続ける中で、5人の子どもを一人で育てている人、事情があって宇宿の街で暮らすことになったシングルマザーの人など、生活に困っている人と少しずつ繋がることができましたから」
ある時は子ども食堂のお弁当を予約する公式LINEに「何度も申し込もうとしたけど、すぐ締め切られて予約できませんでした。本当に困っている人にやっていただきたいです」と切実な思いが書かれたメッセージが寄せられたこともあったそう。
「でも、そういう方たちが連絡してくださるおかげで、子ども食堂のために寄付でいただいた野菜を時々お渡しできるようにもなりました」
「小さな支援」が未来を変える
私たちは新しい支援の試みに対して、つい否定的に捉えたり、斜めに見たりしがちです。
本当に必要な人に届く支援なのか、と。
でも、「子ども食堂を通して子育て世帯を応援できて、今まで困っているのに相談できなかった人とも繋がれることがすごく嬉しい」と笑顔で話す眞由美さんの話を聞いていると、「必要だと感じたら細かいことは気にせず、まずは始めてみる」。そのことがいかに大切なのか、改めて気づかされました。
しかも、思いを込めて活動を続けていけば、新しく出会えた人の笑顔が増え、少しずつ未来が変わっていくー。
「子ども食堂が軌道に乗ったら、困っている家庭の子どもの学習支援も始めたいと思っているんです」
ボランティアスタッフの笑顔に囲まれながら、眞由美さんは早くも次の目標を見据えています。